ワールドカップロシア大会総括その3

引き続き注目国の評価を。


ベルギー

これも高速カウンターの勝利と言えるだろう。ルカクアザール、デブルイネは攻撃を牽引してグループ首位通過に大きく貢献したし、コンパニが統率する守備は得点に対しては十分な割合の失点にとどめた。しかし決勝トーナメントの日本戦では2点を失う結果になったがそれは守備には特に問題なく、どれもほぼノーチャンスの攻撃であった。それ以上に日本の守備の弱点であるアジリティとフィジカルにおいて得意のカウンターを出せたのは大きかった。どの大会においても勝ち上がるチームにはどんな状況でも自分たちの特徴をだせるという共通点があると思う。ブラジル戦でもそのカウンターが炸裂していた。フランス戦ではフランス守備陣とカンテにカウンターを封印されてしまい、高くて強いフランス守備陣に正攻法で挑まざるをえなくなったためうまく攻撃できずに沈んだ。なんといってもMVPはアザールだろう。3人に囲まれてもボールを失わず、攻撃のエンジンを切らさずに相手を脅やかし続けた。チームの年齢も若いため次も楽しみだが、中盤で全く役に立たなかったフェライニを外し、調子が上がらない時のルカクに変われる誰かを見つけない限り、3位以上の成績を残すのは難しくなるだろう。


クロアチア

はっきり言って驚いた。絶対的エースと言える選手が存在しない中で得点力不足に悩むだろうと予測していたが予想以上にチームがまとまっていた。モドリッチは今大会の他の誰よりも完璧に中盤を支配していたし、攻撃陣にラキティッチを加えた人数で攻撃が完結していたため守備陣は守備に集中できていた。マンジュキッチは評判通り攻守にピッチを駆け回っていたし、ここぞという場面で点を決める勝負強さはクリスティアーノ・ロナウドのそれにもおとらなかった。アルゼンチン戦で相手の隙に畳みかける攻撃も素晴らしかったし、ロシア戦で追いつき勝ち越したスピリットの強さはチームがまとまっていなければ生まれないものだったろう。決勝のフランス戦は完全に相手の術中にハマってしまっていた。フィジカルはほぼ互角だが、スピードでは確実にフランス攻撃陣がクロアチア守備陣に優っていた。時間的に一試合多く戦っていたことや、ペリシッチのハンドを除いてもフランスの優勝はほぼ間違いないなかっただろう。全体的にラキティッチの調子がイマイチだった気がする。もう1人のモドリッチになるくらいの勢いでプレーしていたらかなり相手にとって恐怖だったかもしれない。

ワールドカップロシア大会総括その2

今回は注目した各国の個人的評価を。


ドイツ

個人的に大会前は優勝候補筆頭に置いていた。エジル、クロース、ドラクスラーの中盤とミュラー、ロイス、ゴメス、ヴェルナーの攻撃陣でポゼッションをうまく使いつつ点を取れるだろうと思ったが大誤算。特にヴェルナーは本来裏に抜けて走らせるべき選手なのに試合ではヴェルナーがサイドからクロスを上げるような形になっていて全く活かせてないと思った。他のフォワードも自分から展開してフィニッシュまで行ける選手ではないためメキシコやスウェーデンのように引いて守られたらほぼ終わりであった。珍しく司令塔のクロースにミスが目立った。そしてあいも変わらずDF陣はアジリティに欠け、カウンターの餌食になっていた。得意のサッカーが通用しなかった時点で戦略をガラリと変えることが思い切ってできなかったことが一次リーグ敗退の要因だろう。


フランス

早々にポゼッションサッカーからカウンターへ切り替え、アタッカー陣が期待通りに決めるというチーム一丸になったサッカーが出来ていた。当然の優勝だろう。多くの人はムバッペとグリーズマン、それからパヴァールの活躍に目を奪われがちだが僕自身は今大会フランスのMVPは間違いなくカンテだと思う。レスター時代からの変わらないデュエルの強さはDFの負担を軽減するとともにオフェンスに素早くチェンジしてカウンターへ移行する今回のフランスの得点パターンの多くを演出した。むしろカンテが止められなかった時を探す方が難しく、カンテがいなかったらフランスは間違いなく準決勝までで敗退していただろう。守備陣ではヴァランが素晴らしい働きを見せた。選手の年齢が若く、ムバッペを中心に次回大会にも期待がかかる。

ワールドカップロシア大会総括

今回ロシアで開催されたワールドカップは強豪が苦戦する一方で新顔が躍進し、新たなスターも誕生した、見る側にとっては非常にエキサイティングなものになった。


ということで今回はロシアワールドカップ全体に言えること、各国の評価、個人的各賞などについて書いてみたいと思う。


まず大会全体を通して言えることは、今大会はポゼッションサッカーの死亡証明であることだろう。前回大会王者のドイツは大会前は敵なしとして優勝候補最有力とされていたが、ポゼッションを取りながらも決定力に欠き、メキシコやスウェーデンのすばやいカウンターを受けてあえなく一次リーグで沈んでいった。

前回大会王者は翌大会では一次リーグ敗退になるというジンクスがよく出てくるが、これはある程度当然の結果として生まれあるジンクスだと思う。思い返せば2010年の南アフリカ大会で優勝したスペインは細かいパスを精密機械のように繋ぎながら試合を支配する”ティキタカ”で一世を風靡したが、翌ブラジル大会ではオランダのステーションスキップとチリの数をかけたカウンターの前に一次リーグ敗退となった。

チリの方に関してはわからないが、オランダのステーションスキップはティキタカの司令塔シャビがいる中盤を一気に通り越して前線にパスを送って、決定力のあるロッベンファン・ペルシーに決めさせるという、スペインのサッカーを研究した結果の戦略であった。

今回もブラジル大会で優勝したドイツはポゼッションを維持しつつ攻守に数をかけるハードワークサッカーを展開したが、攻撃に数をかけたところで引いて守る側にボールを奪われ、カウンターをくらったのだ。ドイツにクローゼのような決定的な仕事をするストライカーがいなかったことも考慮するべきではあるが、今回もドイツ始めアルゼンチン、スペイン、ブラジルといった強豪国はどこも堅守速攻カウンターサッカーに苦しみ敗退していった一方で、ポゼッションを捨ててでもカウンターを展開したフランスが優勝している。従って、今大会はポゼッションサッカー支配の終焉と言えるだろう。